新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。東京も大阪も感染者累計のグラフは角度を増していて、まさに瀬戸際といっても過言ではなさそうです。
国難という点で、東日本大震災と今回の新型コロナウイルスの感染拡大を比較したとき、今回の方がある意味深刻かもしれません。
お亡くなりになった方はまだ少ないですし、津波で家や仕事を奪われたということもありません。原発が爆発して避難する人もいません。
テレビもCMが流れていて、番組もほぼ通常通りです。お笑い番組も放送されています。でも今回の方が深刻だと思います。
東日本大震災のときはしきりに「がんばろうニッポン」とか「がんばろう東北」という言葉が叫ばれていました。
今回そんなことを叫んでいるひとはあまりいないように思います。
新型コロナウイルスは、全世界の人にあまねく影響しています。感染していなくても、経済が止まって困っています。その点で全員が被害者です。
だからこそ、余裕をもって「がんばろう」と呼びかける人がいないのです。
もともと「がんばれ」というと被災者の目線ではないから、同じ目線ということで「がんばろう」と呼びかけるという趣旨だったように思います。
やはり被災していない人の余裕があるからこそ、呼びかけが行われたのです。
ところで、百貨店の三越伊勢丹は、こんどの土日、その次の土日に休業すると発表しました。小池百合子東京都知事が不要不急の外出自粛をよびかけた28日と29日に、同業の高島屋や松屋が休業したにもかかわらず営業したことで、SNSなどで批判を浴びたことが背景にあるそうです。
年度末の土日といえば年末年始と並んで売上の多い時期で、営業したい気持ちは理解できますが、これはブランディング的に非常にまずいことでした。
広告宣伝などで能動的に発信してきた良いイメージを打ち消すだけのインパクトがあります。
そもそもブランディングは、「あのデパートの商品は品質がよい」とか「あのデパートはセンスがいい」といったイメージを持たせるために、さまざまな広告宣伝を積み重ねます。
しかしこうしたもともとは存在しないイメージをつくり上げるのは大変なことです。
むしろ「あのデパートは悪いものを売っていない」「あのデパートはダサいものを置いてない」という「~ではない」という否定文の集積がイメージを作り上げる気がします。
品質がよいとか、センスがよいとか、基本的には満たしているべき期待の水準を裏切らないことが、結果そのイメージの確立に寄与するのです。
それは、よく(ラインに対しての)スタッフ組織のひとたちに期待される「できて当たりまえ。だから褒められない。でも、できないと怒られる。」ということと同じです。
かつて三越伊勢丹は、お子さんのことを第一に考え、危険なもの、また暴力的なものを取り扱わないというポリシーがありました。だから花火やモデルガンを販売していませんでした。いまはどうか知りません。
三越伊勢丹はには、こうした「危険なものを販売しない」「暴力的なものは取扱いしない」という肯定的な内容の否定文の集積がありました。
それがじつは三越伊勢丹のブランディングに大きく寄与してきたのです。
ほかにも従業員のことを考えて「お正月三が日は営業しない」というのもありました。いわゆるワーク・ライフバランスです。そのために新宿のデパートでは新年4日から営業するという紳士協定がありました。
新宿高島屋がオープンした翌年、高島屋が1月2日から営業したために、その紳士協定は崩れました。
それから20年あまり。業績不振にあえぐデパートは、社会の要請を無視して批判にさらされました。そしてかつては紳士協定を破った側が、社会の要請にこたえているのです。
でも、「社会の要請にこたえる」という肯定文が、とくにイメージ向上につながることではありません。やはりそれは当たり前のことだからです。
でも、「社会の要請に応えない」という否定的な内容の否定文は、ブランドイメージを大きく損ないました。
ブランディングは、派手な広告宣伝が作り上げるものではなく、不断の地道な努力、とくに「○○は××しない」という顧客の期待を裏切らないことの集積なのです。